大型セールの初日、午前中から注文が勢いよく入ってきます。ところが昼過ぎに倉庫から連絡が来ます。「この売れ筋、もう棚に1個もありません」。管理画面を見ると、楽天市場の商品ページはまだ「在庫あり」のまま。自社ECとAmazonでも注文が入り続けていて、気づいたときには数十件の売り越し(実際の在庫より多く注文を受けてしまうこと)が発生していました。その日の午後は、キャンセル処理とお詫びメールの作成で終わってしまいます。
別の会社では、決算前の棚卸しで、システム上の在庫と倉庫の実在庫が数百点ずれていることが判明します。どの時点でずれたのか、誰も説明できません。返品された商品を戻し忘れたのか、不良品を除き忘れたのか、入荷数の入力を間違えたのか。原因がわからないまま、帳簿の数字を実在庫に合わせて修正し、次の期も同じことを繰り返します。
こうしたトラブルは、担当者の注意不足として片づけられがちです。しかし、楽天・Amazon・Yahoo!ショッピング・自社ECを併売する会社で在庫管理が破綻する原因は、個人のミスよりも、在庫という数字の構造と、それを動かすルールが決まっていないことにあります。この記事では、在庫管理が破綻する会社に共通するパターンを整理したうえで、在庫ズレ・欠品・過剰在庫を防ぐ7つの運用ルールと、システムを導入すべき段階の判断基準を解説します。
この記事の結論 — EC在庫管理の破綻は「数え間違い」ではなく、在庫を1つの数字として扱い、在庫の正本(基準となる唯一のデータ)と、各チャネルに「売ってよい数」を決めるルールが存在しないことから起きます。在庫を実在庫・引当済み・販売可能などに分解し、正本を1つに決め、チャネル別の配分と反映ルールを運用として固定することが、ズレ・欠品・過剰在庫を同時に減らす近道です。
なぜEC在庫管理は「売れているときほど」破綻するのか
在庫管理のトラブルは、閑散期にはほとんど表に出ません。1日の注文が少なく、担当者が在庫表と倉庫の棚を目で見比べられるうちは、多少のズレがあっても手作業で吸収できるからです。問題が噴き出すのは、セールや季節の需要で注文が急増したとき、販売チャネルを増やしたとき、そして取り扱いSKU(在庫管理の最小単位。色やサイズ違いはそれぞれ別のSKU)が増えたときです。
注文件数が増えると、在庫が動く回数も増えます。在庫が動くたびに、受注・引当・出荷・入荷・返品といった処理が発生し、それぞれが別々の担当者や別々のシステムで記録されます。1回あたりのズレの発生確率が小さくても、処理回数が増えれば、ズレの総数は確実に増えていきます。つまり在庫管理は、売上が伸びるほど難しくなる性質を持った業務です。
注文件数が増える
在庫の更新回数が増え、反映の遅れや入力漏れが起きる機会が増える
チャネルが増える
同じ在庫を複数のモールで同時に売るため、連携のタイムラグで売り越しが起きる
SKUが増える
商品コードの対応関係が複雑になり、違う商品の在庫を減らす取り違えが起きる
もうひとつの理由は、在庫が会社の中で「誰のものでもない数字」になりやすいことです。販売担当はモールの売上を、物流担当は出荷件数を、経理は棚卸しの金額を見ています。それぞれが在庫の一部分には責任を持っていても、在庫の数字全体に責任を持つ人がいない。この状態で事業が拡大すると、ズレは発見されないまま積み上がっていきます。
まず在庫を6つの数字に切り分ける
在庫管理が破綻する会社の多くは、在庫を「1つの数字」として扱っています。「この商品は在庫が100個ある」という言い方をしますが、その100個は、すぐに売れる100個なのか、すでに注文が入っていて出荷を待っている商品を含むのか、外部倉庫に預けている分を含むのかが曖昧です。在庫は、少なくとも次の6つに分けて考える必要があります。
| 在庫の区分 | 意味 | 売ってよいか |
|---|---|---|
| 実在庫(物理在庫) | 倉庫の棚に物理的に存在する数 | そのままでは判断できない |
| 引当済み在庫 | 注文が入り、出荷のために確保された数。棚にはあるが、もう売れない | 売れない |
| 販売可能在庫(有効在庫) | 実在庫から引当済みや不良品などを除いた、新たに売ってよい数 | 売れる |
| 入荷予定在庫 | 発注済みで、まだ倉庫に届いていない数 | 予約販売など、ルールを決めた場合のみ |
| 不良・返品保留在庫 | 返品されて検品待ちの商品や、破損・汚損で販売できない商品 | 検品・判定が終わるまで売れない |
| 外部倉庫在庫 | Amazonの配送代行サービス(FBA)など、自社以外の倉庫に預けている数 | 預けた先のチャネルでのみ売れることが多い |
この中で、各モールに表示すべきなのは「販売可能在庫」だけです。ところが実在庫の数をそのままモールに登録していると、引当済みの商品や検品待ちの返品まで「売れる在庫」として表示されてしまいます。また、外部倉庫に預けた在庫を自社倉庫の在庫と合算していると、自社ECで売れたのに自社倉庫には商品がない、という事態が起きます。
考え方の基本式:販売可能在庫 = 実在庫 − 引当済み在庫 − 不良・返品保留在庫 −(チャネル別に確保した在庫やバッファ)。この式のどの項目を、どのシステムが、どのタイミングで更新するのかを決めることが、在庫管理の設計そのものです。
モール併売で売り越しが起きる仕組み:在庫連携のタイムラグ
複数のモールで同じ在庫を販売する場合、多くの会社は在庫連携システム(複数のモールやカートの在庫数を自動で同期するツール)を使っています。在庫連携システムは、あるモールで注文が入ると在庫数を減らし、その結果を他のモールにも反映します。しかし、この反映は瞬時ではありません。
STEP 1
モールAで注文
楽天市場で最後の1個が売れる。楽天側の在庫は0になる
STEP 2
連携システムが取得
次の同期のタイミングで、連携システムが注文を取り込む
STEP 3
在庫を再計算
連携システム上の在庫を減らし、各モールへ送る数を計算する
STEP 4
他モールへ反映
Amazon・Yahoo!・自社ECの在庫数が更新される
STEP 1からSTEP 4までの間、他のモールでは「在庫あり」の表示が続きます。この空白の時間に別のモールで注文が入れば、それが売り越しになります。同期の間隔はツールや契約プラン、モール側の仕組みによって異なり、数分程度のものから、それ以上かかるものまであります。具体的な間隔は、利用している在庫連携システムとモールの最新の仕様で確認してください。
通常期であれば、このタイムラグの間に同じ商品の注文が重なることはめったにありません。しかしセールの開始直後やメディア露出の直後は、短時間に注文が集中するため、タイムラグの影響が一気に表面化します。売り越しは、連携システムの不具合ではなく、タイムラグが存在する前提で在庫を配っていないことから起きると理解しておくことが重要です。
| 状況 | 売り越しのリスク | 主な対策 |
|---|---|---|
| 通常期・在庫に余裕がある | 低い | 通常の同期で運用 |
| 通常期・残りわずか | 中程度 | 一定数を下回ったら一部チャネルを在庫0にするバッファ設定 |
| セール開始直後 | 高い | セール前にチャネル別の配分数を決め、在庫を分けて登録 |
| 連携システムの停止・障害時 | 非常に高い | 停止時に全チャネルの販売を止める手順を事前に決める |
在庫管理が破綻する会社の7つの共通点
在庫トラブルが繰り返される会社を見ていくと、業種や規模が違っても、驚くほど似た状態が見つかります。次の7つのうち、3つ以上が当てはまる場合は、在庫管理の仕組みそのものを見直す段階に来ています。
- Excelへの手入力が在庫の基準になっている…入荷や返品を担当者がスプレッドシートに手で入力し、それをもとにモールの在庫数を手で更新している。入力の遅れや転記ミスがそのまま在庫ズレになる。
- 在庫の「持ち主」がいない…在庫数に最終責任を持つ担当者が決まっておらず、ズレが見つかっても誰も原因を調べない。
- SKUの設計が統一されていない…同じ商品なのに、楽天・Amazon・自社ECでそれぞれ違う商品コードを使っており、対応表がない、または古い。
- 返品・不良品の戻し処理が曖昧…返品された商品をいつ、誰が、どの区分に戻すのかが決まっておらず、検品前の商品が販売可能在庫に戻ったり、良品が戻されないまま眠ったりする。
- セール前の在庫配分を決めていない…全チャネルで同じ在庫を奪い合う状態のまま大型セールに入り、売り越しと欠品が同時に起きる。
- 発注点が決まっていない…「そろそろ少なくなってきた」という担当者の感覚で発注しており、欠品してから慌てて発注する、または不安から過剰に発注する。
- 棚卸しが年1回だけ…決算時の棚卸しでしか実在庫を確認しないため、ズレが1年分たまってから見つかり、原因を特定できない。
在庫ズレにつながる
手入力、SKUの不統一、返品処理の曖昧さ、年1回の棚卸し
欠品・売り越しにつながる
セール前の配分なし、発注点なし、連携のタイムラグの軽視
過剰在庫につながる
感覚的な発注、売れ残りを見る会議がない、持ち主がいない
注目したいのは、これらの共通点の多くがシステムの有無ではなく、ルールと役割の問題だということです。高機能な在庫管理システムを入れていても、返品をいつ戻すか、セール前にどう配分するかが決まっていなければ、同じトラブルは起きます。逆に、ルールが明確な会社は、比較的シンプルな仕組みでも在庫を安定して回しています。
在庫ズレ・欠品・過剰在庫を防ぐ7つの運用ルール
ここからは、前章の共通点に対応する7つの運用ルールです。すべてを一度に整える必要はありません。ルール1と2で土台を作り、ルール3〜5で日々の動きを固め、ルール6と7で継続的にズレを見つけて直す、という順番で進めると定着しやすくなります。
土台
ルール1・2
SKUコードを統一し、在庫の正本を1つに決める
日々の動き
ルール3〜5
発注点、チャネル配分、入荷・返品の反映ルールを決める
点検と改善
ルール6・7
循環棚卸しと週次の在庫レビューでズレを早期に発見する
ルール1:SKUコードを全チャネルで統一する
最初に整えるべきなのは、商品を識別するコードです。自社で管理するSKUコードを1つ決め、楽天・Amazon・Yahoo!・自社ECのそれぞれの商品管理番号と、1対1で対応づけます。モールごとに登録の仕様が異なり、同じコードをそのまま使えない場合もありますが、その場合でも「自社SKUコードとモール側の番号の対応表」を1か所で管理します。
コードの付け方にもルールを決めます。商品の型番、色、サイズの順に並べるなど、コードを見ればどの商品かがわかる体系にしておくと、取り違えが減ります。セット商品(複数の単品を組み合わせて販売する商品)は、セット自体のコードと、構成する単品のコードの関係を登録し、セットが売れたら単品の在庫が減る仕組みにしておく必要があります。
ルール2:在庫の正本を1つに決める
在庫の正本とは、「在庫数はここに書いてある数字が正しい」と社内で決めた、唯一の基準となるデータのことです。モールの管理画面、在庫連携システム、倉庫のシステム、担当者のExcelなど、在庫数が書かれた場所が複数あると、どれが正しいのかで迷い、修正するたびに別の場所とずれていきます。
正本を決めたら、在庫数の修正は必ず正本で行い、他の場所は正本から自動で反映される形にします。モールの管理画面で直接在庫数を書き換えることは、原則として禁止します。どうしても必要な場合は、正本も同時に修正する手順と、修正の記録を残すルールを決めておきます。
正本を決めるときの問い:入荷・出荷・返品・棚卸しのすべての動きが、最初にどこに記録されるか。その場所が正本の第一候補です。記録の起点と正本が離れているほど、ズレの入り込む隙間が増えます。
ルール3:安全在庫と発注点を商品ごとに決める
発注のタイミングを担当者の感覚に任せないために、商品ごとに安全在庫と発注点を決めます。安全在庫とは、販売数のぶれや入荷の遅れに備えて、常に確保しておく在庫のことです。発注点とは、在庫がこの数を下回ったら発注する、というラインのことです。
発注点は、一般に「1日あたりの平均販売数 × 調達リードタイム(発注してから入荷するまでの日数)+ 安全在庫」で考えます。たとえば、1日平均10個売れ、発注から入荷まで14日かかり、安全在庫を50個とする商品なら、発注点は190個です。この数字は仮の例であり、実際には商品ごとの販売実績と仕入先の納期をもとに設定し、季節やセールの予定に応じて見直します。すべての商品で精密に計算する必要はなく、売上の大きい主力商品から順に設定すれば十分です。
ルール4:チャネル別の在庫配分とバッファを決める
モール併売で売り越しを防ぐには、チャネル別の配分とバッファ(安全のために表示在庫から差し引いておく数)を決めます。通常期は全チャネルで在庫を共有し、販売可能在庫が一定数を下回ったら、一部のチャネルの表示在庫を0にする、あるいは表示数を減らす設定が一般的です。
大型セールの前には、より踏み込んだ配分が必要です。セールを行うチャネルにどれだけの在庫を割り当てるか、他のチャネルはどこまで販売を続けるかを、セールの数日前までに決めておきます。配分を決める際は、過去のセールでの販売実績と、セール後にどのチャネルで在庫を消化できるかも考えます。
| 配分の方式 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 共有方式 | 全チャネルで同じ在庫を共有し、連携システムで同期する | 通常期、在庫に十分な余裕がある商品 |
| バッファ方式 | 共有しつつ、残りが一定数を下回ったら表示在庫を減らす | 通常期の売れ筋、残りわずかの商品 |
| 割当方式 | チャネルごとに販売してよい数をあらかじめ分けて登録する | 大型セール、限定商品、入荷が少ない商品 |
| 専用在庫方式 | 外部倉庫に預けた在庫を、そのチャネル専用として扱う | FBAなど外部倉庫を利用するチャネル |
ルール5:入荷・返品・不良の反映ルールを決める
在庫ズレの多くは、出荷ではなく、入荷と返品の処理で生まれます。入荷した商品を、検品前に販売可能在庫に入れるのか、検品が終わってから入れるのか。返品された商品を、誰が検品し、良品と不良品をどう判定し、何日以内にどの区分に戻すのか。これらを文書にして、担当者が替わっても同じ処理ができるようにします。
特に重要なのは、反映のタイミングと担当者を決めることです。「入荷は検品完了の当日中に正本へ登録」「返品は到着後に返品保留在庫へ入れ、検品後に良品のみ販売可能在庫へ戻す」「不良品は不良在庫として別管理し、月に一度処分か返品かを判断する」といった形で、具体的に決めておきます。
ルール6:循環棚卸しでズレを早く見つける
循環棚卸しとは、全商品を一度に数えるのではなく、商品をグループに分けて、毎日や毎週少しずつ数えていく方法です。年に1回の一斉棚卸しだけでは、ズレが1年分たまってから見つかり、原因をさかのぼれません。循環棚卸しなら、ズレが小さいうちに見つかり、直近の入荷や返品の記録から原因を特定しやすくなります。
数える順番は、売上の大きい商品、動きの多い商品、過去にズレが多かった商品を優先します。ズレが見つかったら、数字を修正するだけで終わらせず、原因を記録します。原因の記録がたまると、「返品処理でのズレが多い」「特定の商品群で取り違えが多い」といった傾向が見え、ルールの改善につながります。
ルール7:週次の在庫レビュー会議と指標を持つ
最後のルールは、在庫の状態を定期的に確認する場を持つことです。週に一度、販売・物流・仕入の担当者が集まり、決まった指標を見ながら、発注・配分・処分の判断を行います。会議は長くする必要はなく、指標の確認と判断事項の決定に絞ります。
| 指標 | 意味 | 会議で判断すること |
|---|---|---|
| 在庫回転日数 | 今の在庫が、現在の販売ペースで何日分あるか | 発注量の増減、販促で消化すべき商品の選定 |
| 欠品率 | 販売したい期間のうち、在庫切れだった割合や品目数 | 発注点・安全在庫の見直し、仕入先との納期調整 |
| 滞留在庫 | 一定期間売れていない在庫の品目数と金額 | 値下げ・セット販売・処分などの判断 |
| 在庫差異 | 循環棚卸しで見つかったズレの件数と原因 | 反映ルールや作業手順の改善 |
| 売り越し件数 | 在庫不足によるキャンセルの件数 | チャネル配分・バッファ設定の見直し |
在庫回転日数のもとになる在庫回転率の詳しい計算方法は別の記事で解説していますが、ここで大切なのは、計算の精度よりも、毎週同じ指標を同じ方法で見続けることです。数字の変化に気づける状態を作ることが、レビュー会議の目的です。
判断基準:OMS・WMSを導入すべき段階
在庫管理を仕組み化する際に検討されるのが、OMS(受注管理システム:複数チャネルの注文を一元管理し、在庫の引当を行う仕組み)とWMS(倉庫管理システム:倉庫内の入荷・保管・ピッキング・出荷を管理する仕組み)です。どちらも有効な仕組みですが、導入すれば在庫問題が解決するわけではありません。自社がどの段階にいるかで、優先すべき対策は変わります。
| 段階 | 状態の目安 | 優先すべき対策 |
|---|---|---|
| 段階1:単一チャネル中心 | 販売チャネルが1〜2つ、SKUも少なく、担当者が全体を把握できる | SKUコードの統一、正本の決定、返品ルールの文書化 |
| 段階2:複数モール併売 | 3つ以上のチャネルで同じ在庫を販売し、手作業での在庫更新が追いつかない | 在庫連携の自動化、チャネル別配分とバッファの設定 |
| 段階3:受注処理が負担 | 注文の取り込み、引当、出荷指示に毎日多くの手作業が発生している | OMSによる受注と引当の一元化 |
| 段階4:倉庫内のミスが課題 | ピッキングの取り違え、ロケーション(棚番地)不明、入荷検品の遅れが目立つ | WMSの導入、または物流委託先の仕組みの活用 |
判断のポイントは、ズレがどこで生まれているかです。注文の取り込みや引当で手作業のミスが多いならOMS、倉庫内の作業でズレが生まれているならWMSが効果を発揮します。どちらの場合も、導入前にルール1〜5を整えておかないと、システムに曖昧なルールをそのまま載せることになり、ズレの原因が見えにくくなるだけです。物流を外部に委託している場合は、委託先の倉庫システムと自社の正本の関係を明確にすることが先決です。
システム導入を急ぐべきでないケース:SKUコードが統一されていない、在庫の正本が決まっていない、返品の処理ルールがない。この3つのどれかが当てはまるうちは、システムの選定よりもルールの整備を先に行うほうが、導入後の効果が大きくなります。
失敗する典型パターン
パターン1:モールの管理画面で在庫を直接直してしまう
売り越しや欠品に気づいた担当者が、急いでモールの管理画面で在庫数を書き換えるケースです。その場はしのげても、在庫連携システムの次の同期で元の数字に上書きされたり、正本との差が生まれたりします。緊急時の操作手順を決め、修正は正本で行うことを徹底します。
パターン2:セット商品と単品の在庫を別々に持つ
セット商品を独立した商品として在庫登録し、構成する単品の在庫と連動させていないケースです。セットが売れても単品の在庫が減らず、単品の売り越しが起きます。逆に、セット用に確保したつもりの単品が先に売れてしまうこともあります。
パターン3:外部倉庫の在庫を自社在庫に合算する
FBAなどの外部倉庫に預けた在庫を、自社倉庫の在庫と一緒に管理しているケースです。合計の在庫数は合っていても、自社ECで売れた商品を自社倉庫から出荷できず、欠品になります。外部倉庫の在庫は、預けた先のチャネル専用の在庫として、区分を分けて管理します。
パターン4:システム導入をゴールにしてしまう
在庫のトラブルが続いたため、高機能なシステムを導入したものの、運用ルールを決めないまま稼働させたケースです。返品の戻し処理やセール前の配分が担当者任せのままなので、トラブルの件数は大きく変わりません。システムはルールを自動で実行する道具であり、ルールを作る道具ではありません。
共通する原因
在庫を動かす操作の「入口」が複数あり、どれが正しいかが決まっていない
共通する対策
正本と操作手順を決め、例外の操作も記録が残る形に限定する
【独自視点】在庫管理は「数を数える業務」ではなく「売ってよい数を決める意思決定」として設計する
在庫管理というと、多くの人は「棚にある商品の数を正確に数え、システムに入力する業務」を思い浮かべます。もちろん、数が正確であることは大前提です。しかし私たちは、在庫管理の本質はもう一歩先にあると考えています。それは、今この瞬間に、どのチャネルで、何個まで売ってよいかを決めることです。
この見方に立つと、在庫管理で設計すべきものが変わります。棚の数を数える精度だけでなく、引当済みや返品保留をどう差し引くか、セール時にどのチャネルへどれだけ配るか、連携のタイムラグにどれだけのバッファを持たせるか、という「判断のルール」が設計の中心になります。在庫の数字は事実ですが、各モールに表示する数字は、会社としての意思決定の結果なのです。
元・大手ECモール出身のメンバーとして、多くの店舗の運営を見てきた経験から言えば、在庫トラブルが少ない会社は、例外なくこの「売ってよい数」の決め方が言葉になっています。担当者が替わっても、同じ状況で同じ判断ができる。セールの前に、誰が配分を決め、誰が承認するのかが決まっている。ECは戦術ではなく設計で決まるという考え方は、在庫という地味に見える領域でこそ、はっきりと差になって表れます。
| 観点 | 「数を数える業務」として捉える | 「売ってよい数を決める意思決定」として捉える |
|---|---|---|
| 担当者の役割 | 入力と照合を正確に行う作業者 | 配分とバッファを判断し、結果に責任を持つ持ち主 |
| セール前の準備 | 在庫数を確認するだけ | チャネル別の配分と、売り越し時の対応を決める |
| ズレが見つかったとき | 数字を修正して終わる | 原因を記録し、判断ルールや反映ルールを直す |
| 評価する指標 | 棚卸しの差異 | 欠品率・売り越し件数・滞留在庫・在庫回転日数 |
実務では、在庫の持ち主となる担当者を1人決め、その人に「各チャネルの販売可能数を決める権限」と「ズレの原因を調べる責任」をセットで渡すことから始めると、この考え方が定着しやすくなります。在庫は、数える対象であると同時に、売上と利益を左右する経営資源です。
よくある誤解
- 誤解1:「在庫連携システムを入れれば売り越しはなくなる」…連携には必ずタイムラグがあります。売り越しを防ぐのは、タイムラグを前提にしたバッファと配分のルールです。
- 誤解2:「在庫ズレは棚卸しで直せばよい」…棚卸しで数字を合わせても、ズレを生む処理が変わらなければ、次の棚卸しでも同じだけずれます。原因の記録と改善が必要です。
- 誤解3:「在庫は多めに持っておけば安心」…欠品は減っても、資金が在庫に固定され、保管コストや売れ残りのリスクが増えます。安全在庫と発注点で、必要な量を決めることが大切です。
- 誤解4:「在庫管理は物流部門の仕事」…どのチャネルで何個売るかは販売の判断であり、いつ何個仕入れるかは仕入の判断です。在庫管理は、販売・物流・仕入をまたぐ業務です。
- 誤解5:「高機能なシステムほど在庫は正確になる」…システムは決められたルールを正確に実行するだけです。ルールが曖昧なまま導入すると、曖昧さが自動化されるだけになります。
モール併売の運営体制や在庫配分のルールづくりから見直したい場合は、ECコンサルティングサービスでご支援しています。日々の受注・在庫更新を含めた運営のご相談はEC運営代行サービス、倉庫や出荷体制の見直しは物流支援サービス、自社ECの在庫連携を含めた構築はEC構築サービスをご覧ください。
在庫管理の運用チェックリスト
自社の在庫管理の状態を、次の項目で確認してください。「いいえ」が多い区分から優先的に手をつけると、効果が出やすくなります。
| 区分 | 確認項目 |
|---|---|
| 土台 | 自社SKUコードと各モールの商品番号の対応表が、1か所で最新に保たれている |
| 土台 | 在庫の正本が決まっており、全員が同じ場所を正しい数字として扱っている |
| 土台 | 在庫の持ち主となる担当者が決まっている |
| 構造 | 実在庫・引当済み・販売可能・入荷予定・不良/返品保留・外部倉庫の区分を分けて把握できる |
| 構造 | セット商品が売れたとき、構成する単品の在庫が自動で減る |
| 日々の動き | 主力商品に安全在庫と発注点が設定されている |
| 日々の動き | 販売可能在庫が少なくなったときのバッファ設定がある |
| 日々の動き | 入荷・返品・不良の反映タイミングと担当者が文書で決まっている |
| セール | 大型セールの前に、チャネル別の配分数と承認者を決めている |
| セール | 連携システムが止まったときに販売を止める手順がある |
| 点検 | 循環棚卸しを行い、ズレの原因を記録している |
| 点検 | 週次で在庫回転日数・欠品率・滞留在庫を確認する場がある |
FAQ:EC在庫管理でよくある質問
- Q. EC在庫管理で最初に取り組むべきことは何ですか?
A. 最初に取り組むべきなのは、SKUコードの統一と、在庫の正本を1つに決めることです。商品を識別するコードがチャネルごとにばらばらで、どこの数字が正しいのかが決まっていない状態では、システムを導入しても、発注点を設定しても、ズレの原因を特定できません。この2つを整えたうえで、返品や入荷の反映ルールを決めていくのが確実な順番です。
- Q. 複数のモールで併売すると、なぜ売り越しが起きるのですか?
A. あるモールで商品が売れてから、在庫連携システムが他のモールの在庫数を更新するまでに、必ずタイムラグがあるためです。その間に別のモールで同じ商品の注文が入ると、実在庫より多く受注してしまいます。同期の間隔はツールやモールの仕様によって異なるため、最新の仕様を確認したうえで、残りわずかな商品にバッファを設定し、セール前にはチャネル別の配分を決めておくことが有効です。
- Q. 棚卸しはどのくらいの頻度で行うべきですか?
A. 決算時の一斉棚卸しに加えて、商品をグループに分けて少しずつ数える循環棚卸しを、日常業務に組み込むことをおすすめします。売上の大きい商品や動きの多い商品、過去にズレが多かった商品ほど頻度を高くします。ズレが小さいうちに見つけることで、直近の記録から原因を特定しやすくなります。
- Q. Amazonの配送代行サービス(FBA)の在庫はどう管理すればよいですか?
A. FBAなど外部倉庫に預けた在庫は、自社倉庫の在庫と合算せず、区分を分けて管理するのが基本です。預けた在庫は原則としてそのチャネルの注文に使われるため、合算すると、自社ECで売れたのに自社倉庫に商品がないという欠品が起きます。外部倉庫の在庫数は、利用しているサービスの管理画面やデータ連携で定期的に確認し、正本との関係を明確にしておきます。具体的な仕様は各サービスの最新のヘルプで確認してください。
- Q. OMSやWMSはどのタイミングで導入すべきですか?
A. 複数チャネルの注文の取り込みや引当に毎日多くの手作業が発生しているならOMS、倉庫内のピッキングの取り違えや入荷検品の遅れが課題ならWMSが効果的です。ただし、SKUコードの統一、在庫の正本の決定、返品の処理ルールが整っていない段階で導入すると、曖昧なルールがそのままシステムに載ってしまいます。ルールを先に整え、ズレがどこで生まれているかを確認してから導入を判断してください。
まとめ
結論:EC在庫管理が破綻する原因は担当者の数え間違いではなく、在庫を1つの数字として扱い、在庫の正本と各チャネルで「売ってよい数」を決めるルールがないことにあります。在庫を区分に分け、正本を1つに決め、配分と反映のルールを運用として固定することが、在庫ズレ・欠品・過剰在庫を同時に防ぐ条件です。
- 在庫は実在庫・引当済み・販売可能・入荷予定・不良/返品保留・外部倉庫に分け、モールには販売可能在庫だけを表示する
- モール併売の売り越しは在庫連携のタイムラグが原因。バッファとセール前のチャネル別配分で防ぐ
- 7つの運用ルールは、SKU統一・正本の決定・発注点・チャネル配分・入荷返品の反映・循環棚卸し・週次レビュー
- OMS・WMSは、ズレが受注処理で生まれるか倉庫作業で生まれるかで選び、ルール整備の後に導入する
100文字要約:EC在庫管理の破綻は在庫を1つの数字で扱うことが原因。在庫を区分に分けて正本を1つに決め、チャネル別配分・発注点・返品反映・循環棚卸し・週次レビューのルールで売ってよい数を管理する。
この記事の執筆:ボトルシップ EC コンサルティング
元・大手ECモール出身のコンサルタント集団として、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopifyの運営支援と構築を手がけています。「ECは戦術ではなく設計で決まる」という考え方のもと、施策の前に売上と利益の構造を整理するところから伴走します。

